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認知症のお年寄りへの対応

精神科・神経内科・もの忘れ外来 分野病院

治る認知症もある -早期発見・早期治療-

ひとくちに認知症といっても、その原因にはいろいろなものがあります。
頭蓋内の病気では、脳卒中後に発症するもの、神経細胞の数が減少していく病気によるもの、頭部外傷後に血がたまる硬(こう)膜下血腫(まくかけっしゅ)、そして頭の中に脳脊髄液という水が大量にたまって起きる水頭症などがあります。また、身体の病気ではホルモン異常、重症の肝臓病や腎臓病、ビタミン欠乏症、感染症などによるものがあり、さらには薬によって認知症の症状が現れることもあります。

これらの中で、ホルモンの異常、肝臓や腎臓の病気、ビタミン欠乏症、感染症などの身体疾患によるものや硬膜下血腫、水頭症などによるものはもとの疾患を適切に治療することで、認知症の症状が軽くなる可能性が大きく、治る認知症といえます。
ですから、認知症もしくは認知症を疑った場合でも、これは治らないと一概に決めつけないで、一部には治る認知症もあるということを認識してください。

大切なのは、治る認知症をなるべく早く見つけ出し、正しい治療を行うことです。精神神経科をはじめとした専門の病院、神経内科、脳外科などで、早期診断・早期治療が可能です。

治る認知症・治らない認知症

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治らない認知症でも症状を軽くできる -中核症状と随伴症状-

治らない認知症の症状には、記憶障害や認知障害(コミュニケーション障害)を中心とした中核症状と、さまざまな精神症状からくる随伴症状があります。中核症状とは、たった今したことを忘れてしまったり、自分が今どこにいるのか分からず、道に迷うといった認知症の中心的な症状で、随伴症状とは、このような認知症の中核症状を持ったお年寄りが周りの方々とのおつき合いや人間関係の中で苦しんだり、悩んだり、時には怒ったりする、感情的なもつれが背景となって起こる問題行動を指します。
両者のうち、中核症状に対しては症状の進行を抑制する薬剤と、リハビリテーションなどによって、残っている知的機能をなるべく保つことが治療の中心となります。

一方、随伴症状は治療薬によってある程度症状を軽くすることができます。例えば、不眠、睡眠障害の場合、最近は様々な睡眠導入剤がたくさん開発されているので、これらを少量使うことによって十分解決します。また、自分で大切にしまった財布の場所を忘れて、「財布を盗まれた」という、もの盗られ妄想や、夜眠らずに興奮して、つじつまが合わないことを話したり、外へ飛び出そうとする夜間せん妄には抗精神病薬を、少し落ち込んだり、悲しんだりするうつ状態には、少量の抗うつ薬を投与することによって、かなり症状が軽快します。

ご家族や介護をされている方を悩ませるのは主に随伴症状であると思いますが、このように、治らない認知症と診断された場合でも、適切な治療をすることで、これらの症状は軽くすることができるのです。遠慮なく病院を訪ねて、悩みを相談してみてください。

中核症状・随伴症状

家族の対応によって症状は良くも悪くもなる -穏やかな気持ちでお年寄りと接する-

認知症の治療は薬物療法だけで成り立っているわけではありません。認知症の患者さんの治療には、薬物療法とともに、リハビリテーションセンター、デイケア、デイサービスといった公共のサービスを利用して、残っている身体的・精神的な機能をなるべく長く維持するといったことも必要です。また、こういった治療法とともに、ご家族や介護者がどのように認知症の患者さんと接するかということも非常に重要になってきます。

認知症の記憶障害は非常に強いので、何度説明してもすぐ忘れてしまい、同じ質問や行動を繰り返します。そんな時、ご家族や介護者は、イライラする自分の感情を言葉に出してしまい、厳しい口調で、子どもに対するように叱ってしまうことが多いようです。

しかし、そのたびに認知症のお年寄りは、初めて言われたことなのに、なぜ相手が怒っているのかわからず、不快に感じて、“自分にいいがかりをつけてくる嫌な人だ”と思ってしまいます。

大切なことは同じことを繰り返し質問されても、なるべく穏やかな気持ちで、そのたびに初めてのつもりで話をすることです。ご家族や介護者の適切な対応によっても症状は良くなるのです。

認知症の治療

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認知症の症状の特徴とその対応 -お年寄りの世界を理解する-

記憶障害の特徴

ここでは認知症の中心的な症状である記憶障害の特徴とその対応について詳しく説明したいと思います。 認知症の記憶障害は、最近の記憶・行動全体を忘れてしまいます。そのため、何度も同じことを繰り返し質問したり、食事したことを忘れて「まだご飯を食べていない」とか「うちの嫁は飢え死にさせるつもりか」などといったりします。

しかし、これはご家族に恨みを持っていっているのではなく、食事をしたという行為自体を忘れてしまうために、こういった表現をしてしまうのです。そんな時には「食べたでしょう」といっておさえるのではなく、「ご飯を食べましょうね」といって軽い食事を出したり、「これから食べましょうね」というふうに接する方がよいでしょう。

そのほかにも、最近の記憶は抜けてしまうのに、昔の記憶は残っているので、その当時の記憶の世界に意識が戻っているという特徴があります。もうすでに会社を退職しているのに、背広を着て会社に行こうとしたり、孫がいるにもかかわらず、自分の子どもはまだ小学生だといったりします。また、夕方頃になると自宅にいるというのに、「自分の家に帰る」といいだすこともよくあります。

こういった場合も非常に対応が難しいのですが、「家に帰る」という場合には、「これから帰りましょう」といって一緒に10分ほど散歩するなり、もしくは外がすでに暗ければ、「今日はもう外が暗いから今晩はお泊まりになって、明日の朝お帰りください」という形で、うまくご本人の話に合わせた対応をするのがよいと思います。

認知症の症状の現れ方

このように認知症の症状の出方には特徴があります。また、他人には体面を保って、よそ行きの顔をみせるのですが、より身近なご家族に対して症状が出やすい傾向があります。特に毎日介護をされている方に対して強く出るために、ご家族は何で自分たちに対しては、感謝しないばかりか、ひどい仕打ちをするのだろうとどうしても思いがちになります。しかし、これはむしろ自分たちが家族であるという認識を本人が持っていて、心ではご家族を信頼している証拠なのです。自分の置かれた状況をある程度判断する能力がまだ残っているのだと、ポジティブにとらえた方がよいのではないかと思います。

自分を守る本能は残っている

また、誰でも自分を守ろうとする本能は働きますが、認知症のお年寄りでも同じです。たとえば尿失禁をしてしまった場合に、ご家族が、「こんなことしちゃって、おじいちゃん、だめじゃないの」というと「孫が水をこぼしたんだ」とか「他の人がここで寝ていて漏らしたんだ」などといい訳をすることがあります。
しかし、これを決して嘘つきだと思わないでください。これは誰もが持っている、自分を守る本能がまだ残っていて、どうしても不利なことは認めたくないということなのです。

感情的なしこりは強く残る

そして、ここまでで特に注意する必要があるのは、認知症のお年寄りは、もの忘れは激しいのに、自分の心に残った感情的なしこりは強く残るということです。
例えば、衣替えでせっかくしまった夏服をお年寄りがまた取り出しているような時に、「なにやっているのよ、まったく」などというよりも、「ありがとうございました。あとは私がやりますからお茶でも飲んでください」という方が相手にいやな気持ちを残さないことになります。

また、ひとつのことに長い時間こだわっていることも多いようです。「サイフに3,000円入っていたはずなのに1,000円しかない。あなたが使ったんでしょう」と言い張る場合もあります。
このような時には、「自分じゃない」と否定してもお年寄りはなかなかそのこだわりから抜け出すことができません。むしろお年寄りのいっている話を大事にして「ごめんなさい。さっき集金が来たので借りたんです」といって2,000円を入れるという対応が望ましいように思えます。

感情を表に出した場合にはおそらく認知症のお年寄りは家族の人に対して、うるさい人、嫌な人、恐い人というマイナスのネガティブな感情が残ると思いますし、「ありがとうございます。後は私がやります」という対応をした場合には、“私のやっていた仕事を手伝ってくれて親切だな”というふうにポジティブな感情が残ると思うのです。

大切なのは認知症のお年寄りを現実の世界に対応させるのではなく、我々がお年寄りの持っている世界を理解して、その世界に合わせた対応をするということです。お年寄りにとって穏やかな気持ちで生活することが、随伴症状をはじめとする問題行動をおさえることになるのです。

認知症のお年寄りが作っている世界を理解し大切にする

※引用文献 : 認知症のお年寄りへの対応
(順天堂大学医学部精神医学講座教授 新井 平伊)

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